反復する生き物

基本的には好きな本を何回も読んだ感想と考察あれこれ(ときどき別コンテンツあり)。上部はこれから読む方、下部はもう読んだ方向け。読まずにネタバレのみ希望の方向けでは無いので、ご注意を。

こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話(映画)

こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話(映画)

 

bananakayo.jp

 

原作はこちらですが

こんな夜更けにバナナかよ  筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち

こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち

 

今回は映画についてです。

映画ノベライズはこちら↓

こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話 (文春文庫)

こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話 (文春文庫)

 

 

普段は原作を本で読む派なので、映画を見る習慣は無いのですが、これは大泉洋さん主演で北海道札幌市が舞台ということで、道民としては見ておこうと思いました。

 

【あらすじ】

医学生の彼氏・田中久(三浦春馬)が自分とのデートよりボランティアを優先させることに不満を持った安藤美咲(高畑充希)は、ボランティア現場に乗り込む。

そこで筋ジストロフィーで首と手しか動かせない鹿野靖明(大泉洋)のワガママ振りに怒りを覚えた美咲だったが、鹿野に気に入られ、嫌々ながらもボランティアの一員となり…

 

舞台は1994年〜95年の1年、札幌。

鹿野さんは実在の方。その彼が奔放で病に負けず夢を追う物語ではありますが、鹿野さんとの交流を通じて美咲と田中くんが自分に、相手に、そして夢に向き合い成長していく物語でもあります。

 

【ネタバレに触れないようにした感想】

主演が大泉洋さんで、映画の予告も見た感じから、コメディータッチながら障害者の自立を感動的に描く物語かと思いきや、良い意味で予想を裏切られました。

上記のように、大泉洋さんだけではなく高畑充希さんと三浦春馬さんを中心に進む部分も多く、その2人の成長物語としても見応えがあります。

 

中でも美咲役の高畑充希さんの演技が圧巻。

高畑充希さんは、2013年〜の『ごちそうさん』で杏さん演じるめ以子の義妹役・希子で初めて見ましたが、あの時の役は寡黙な女の子。成長して変わっていくのですが、基本的に芯の強い淑女のイメージでした。

それが今回は、あっけらかんと良くも悪くも物をハッキリ言う女の子。

『ごちそうさん』以来、いくつか出演作品も見ましたが、本当に色々な役ができる女優さんです。

美咲の我の強さには田中くんもタジタジ。同じく我の強い鹿野さんと当然ぶつかりまくりますが、だからこそ芽生えた絆がまた良いです。

美咲と鹿野さんについての感想は、非常に色々あるのですが、あまり書くとネタバレになるので、ここではここまで。ネタバレありで下の方にまとめます。

 

あと、脇を固めるキャラクターも凄く良いです。

特にベテランボランティアの3人

・高村大助(萩原聖人)

・前木貴子(渡辺真起子)

・塚田心平(宇野祥平)

が非常に!!

塚田さんは美咲ちゃんにボランティアの手ほどきをしているシーンがあるので、ボランティアだと分かったのですが、高村と前木さんは鹿野さんの友達だと思っていました。

この3人と鹿野さんの過去が語られることはないのですが、長い付き合いと三者三様の繋がりの太さを感じます。

…中でもハギーです。

ハギーといえば若い時は爽やかで主役なんかもやっていて、当時は格好良いなぁと思ったりしていましたが、もう40代後半。太ったし歳も感じますが、今回は大泉さんと共に30代前半の役で、明るく重度の筋ジスの患者と対等に接するその笑顔は、とても良い味を出していました。

3人の絶妙なチームワークに美咲が加わり、その姿にグッときます。

 

大泉洋さんの演技は言うに及ばず。

ストーリーもテンポ良く、重度の筋ジス患者が主人公なので苦しい場面もありますが、大体笑えて、見どころがたくさんある作品です。

 

あと、舞台が北海道なので、道民としては場所の映像そのものも楽しめました。

美咲のバイト先は、豊平公園駅近くの宮田屋珈琲だと思うのですが…去年秋に実際行ったので、ピンときました。

そしてマスターがオクラホマの河野真也さん(笑)

1台詞だけの登場でしたが、思わず笑ってしまいました。

見たのが福島の映画館だったので、周りの人は分からなかったろうなぁ。北海道だったら笑いが起きたかもしれないと思ったり。

CUEが好きな人にはたまらないですね。

 

 

 

↓以下注意↓

【ネタバレありの感想】

途中でまさかと思う展開がありました。

ここがまたこの映画の凄いところだと私は思います。

 

鹿野さんは即美咲を好きになってしまうのですが、美咲の心が動くところがあるのですよね。

付き合っている彼氏(田中くん)とうまくいかなくなってきて、一緒にいると自分らしくいられる人(鹿野さん)が他にできる。普通の女の子なら心が傾いてもおかしくないシチュエーション。でも鹿野さんは凄く年上だし、障害者。恋愛対象になることはないと思っていましたが。

しかし、男性としては見ていなかった鹿野さんに、美咲が男を感じるシーンがきます。

美咲は何も言わないけど、確実に心が動いていたことが分かる。鹿野さんもただ可愛いから好き、というだけではない、恋する気持ちが分かる。

きっかけも生々しくリアル。

美咲の気持ちは「同情」と決めつける田中くんに、「鹿野さんのこと好きになるかもしれないじゃん!」と叫び、田中くんをハッとさせるシーンもあります。

思い返すと最初から、美咲は鹿野さんをかわいそうな人だから自分が助けてあげようというスタンスで鹿野さんと接していない。だから怒るし、純粋に男を感じたりするし。美咲の真っ直ぐさは凄く魅力的です。

大人数の前でのプロポーズも恥ずかしがることなく真摯に断りました。そしてそれは、鹿野さんが筋ジスだからとかいうことではなく、田中くんが好きだからです。

でもそれからも、鹿野さんを最後まで大切に思い支えたのでしょう。

 

ラストシーンでは、好きな人と結婚して夢を叶えていました。素直に良かった。

美咲の話ばかりになってしまいましたが、本当に見事なヒロインでした。